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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)1239号 判決 1962年10月27日

控訴人(被告) 国

被控訴人(原告) 金山忍

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金四二〇、五〇九円を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人の負担、その余を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は左記のほか原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

控訴代理人の陳述

一、原判決一五枚目(記録第三二六丁)表九行目の証人「今井吉五郎」とあるのは「今野吉五郎」の誤記であるから訂正する。

二、被控訴人の保安解雇について

被控訴人の解雇は保安上の理由によるものであり、保安解雇は、保安基準に該当する事実の有無について米軍司令官が日本側の意見と米軍司令部内に設けられた保安解雇審査委員会の意見を聴き、基準に該当すると判断した場合に要求せられるものであるが、保安上の具体的情報はその性質上容疑者の勤務する現地部隊のみにおいて入手されるものではなく、日本国内の各地に在る駐留軍の各種情報機関によつても入手され、その情報は指揮系統を通じて軍の上部機関に提供されるものである。

被控訴人の解雇は、現地軍としては被控訴人の保安上の具体的理由については全く把握していなかつたところ、軍の上級司令部における別個の情報調査により本件保安解雇を発議するに至つたものであつて、このように現地部隊の発議によらずして、被控訴人の組合活動につき全く関知しない軍の上級司令部の発議によつてなされたものであることは、すなわち本件解雇が真実保安上の理由によるものであつて、軍に不当労働行為意思が存在しないことを示すものである。

三、被控訴人に対する予備解雇について

被控訴人の所属していた横浜技術廠相模本廠のインベントリイ・ブランチ・ストレーヂデイヴイジョンFU・NO3(その後インベントリイ・セクションNO2に変更)においては、貯蔵部修理部品部の作業減少のため人員整理の必要が生じ、相模原渉外労務管理事務所長は、昭和三三年四月二五日米軍より右セクシヨンの荷扱夫全員六名につき、同年六月二〇日かぎり解雇すべき旨の人員整理の要求を受けた。よつて右労管所長が、駐留軍労務者の人員整理の実施手続を規定した日米間の基本労務契約の細目書IH節にしたがつて整理該当者を調査したところ、先任逆順によれば被控訴人は第二位であつて、もしかりに昭和三〇年一二月一〇日の被控訴人に対する本件保安解雇の意思表示が無効であつて、依然として控訴人に雇用される駐留軍労務者として従前の職にあるとするならば、当然整理該当者に当るので、昭和三三年一二月一九日付書面をもつて被控訴人に対し昭和三四年一月二〇日をもつて解雇する旨の予備解雇の意思表示を発し、右意思表示は即日同人に到達した。

よつて、被控訴人については、かりに昭和三〇年一二月一〇日になされた保安上の理由による解雇が無効であつたとしても、昭和三四年一月二一日以降は雇用関係は存在せず、したがつてまた控訴人には同日以降被控訴人に対し賃金を支払う義務はないものである。

四、被控訴人の賃金請求権について

(一)  被控訴人が保安解雇後他に就職して得た収入金額は、被控訴人の保安解雇後の得べかりし賃金額より当然控除されるべきである。すなわち、労務者の給付すべき労務が使用者の責に帰すべき事由によつて履行不能となつた場合に、労務の給付を免れた労務者がその間に他に就職して得た収入は民法第五三六条第二項にいわゆる「自己の債務を免れたるに因りて得たる利益」として償還すべきであり、したがつて労務者の報酬請求権はその償還すべき金額だけ減額されたものについて生ずるものと解すべきである。

(二)  被控訴人は保安解雇を受けた後昭和三二年九月二七日以降横浜市鶴見区寛政町一五番地株式会社佐久間鋳工所に勤務し、同所より給与として

昭和三二年中に合計金         四六、八〇五円

昭和三三年中に合計金        二四〇、七七六円

昭和三四年中に合計金        二三二、一五八円

昭和三五年一月より同年四月迄合計金  七〇、一七六円

の支給を受けている。

(三)  仮りに本件保安解雇が無効であつて、その後も依然として控訴人と被控訴人との間に雇用関係が存続していたものとしても、被控訴人が本件保安解雇から昭和三四年一月二〇日の予備的解雇までの間前記佐久間鋳工所より支給を受けた合計金二八七、五八一円(但し、昭和三四年一月一日より同月二〇日までの分は計算困難のため除く)は右期間に受くべかりし被控訴人の賃金から当然控除されるべきである。

(四)  仮りに右予備的解雇が無効であるとしても、被控訴人が保安解雇から昭和三五年四月三〇日までの間前記佐久間鋳工所より支給を受けた合計金五八九、九一五円は右期間に受くべかりし被控訴人の賃金から当然控除されるべきものである。

(五)  控訴人が右に述べた「控除」の意味は、労働基準法第一七条や第二四条で禁止されるいわゆる賃金の「控除」や「相殺」と同一の意味ではない。

民法第五三六条第二項にいわゆる「償還することを要す」というのは、使用者が反対給付の全額を支払つた後に償還請求権を取得するものと解すべきではなく、また、使用者が反対給付を未だ支払つていないのに、労務者が他に就職して得た収入は、直ちに使用者に償還すべき義務が生ずるものと解すべきものでもなく、労務者の賃金請求権は一種の損益相殺として労務者が他に就職して得た収入金額だけ減額された部分についてだけ発生するものと解すべきである。けだし、このように解さなければ、使用者が賃金を支払つたときに不当利得となるとすれば、支払えば直ちにそれにより不当利得として償還請求できることとなるものを予め支払う義務があるとするのは頗る不合理であるし、また、使用者が未だ賃金を支払つていないのに、労務者が他に就職して得た収入につき直ちに不当利得の返還請求ができるというのもこれまた不合理であるからである。したがつて、被控訴人の本件賃金請求権は保安解雇後他に就職して得た収入金額に相当する部分については発生していないのであつて、計算上その部分だけ減額されたものについてのみ発生しているのであるから、これが支払につき何ら労働基準法第一七条および第二四条違反の問題は生じないのである。

(六)  仮りに右の関係が相殺に該当するとしても、被控訴人が他に就職して得た収入は、被控訴人が軍に対する労務提供の債務を免れたことと相当因果関係があり、その免れた労働時間を利用して得たものであつて、勤務すべき筈であつた軍の労働時間に対応するものであるから、右の収入金と駐留軍労務者として受くべき賃金とは表裏一体ないしは密接不可分の関係にあるものといわなければならない。

したがつて、このような本来労務を提供した上で受くべきであつた賃金と、提供を免れた労働時間を利用して得た収入とを相殺して精算することは、賃金それ自体の計算に関するものであつて、賃金と他の債権との相殺の場合とは本質的に異るものであるから、本来労働者の賃金確保の必要から定められた労働基準法第二四条にはなんら抵触しないものと解すべきである。

(七)  被控訴人が解雇されるまで六カ月間の平均賃金の金額が被控訴人主張のとおりであることは認める。

被控訴代理人の陳述

一、被控訴人の保安解雇について

被控訴人の解雇が現地部隊とは関係なく、軍の上級司令部の調査に基づき専ら保安上の理由でなされたという控訴人の主張は否認する。

現地部隊の軍人および日本人職制の被控訴人に対する態度が原審認定のようなものであつてみれば、現地部隊から軍の上級司令部宛に、被控訴人について何らかの報告がなされたであろうことは容易に推定されるところである。(特に保安担当のサージャンであるクシダが被控訴人を嫌悪していたことは注目されてよい)。殊に被控訴人に対する現地部隊の軍人の露骨ないやがらせが頂点に達した昭和三〇年九月末頃になつてはじめて、昭和二七年以来勤務していた被控訴人についての調査方依頼が軍から調達庁長官宛にあつたというのであれば、なおさら右調査の真の目的が被控訴人に対する解雇の口実を作ることにあつたとの疑いを深めるのである。

二、被控訴人に対する予備解雇について

1  横浜技術廠相模本廠のインベントリイ・ブランチ・ストレーヂディヴィジョンにおいて、貯蔵部修理部品部の作業減少のため人員整理の必要が生じ、相模原渉外労務管理事務所長が、昭和三三年四月二五日米軍より右セクションの荷扱夫全員六名について、同年六月二〇日かぎり解雇すべき旨の人員整理の要求を受けた事実は不知。

2  被控訴人が日米間の基本労務契約書の細目書による整理該当者で先任逆順によれば第二位であることは認める。

3  昭和三三年一二月一九日付書面をもつて被控訴人に対し昭和三四年一月二〇日をもつて解雇すべき旨の予備的解雇の意思表示を発し、右意思表示が即日同人に到達したことは認める。

三、被控訴人の賃金請求権について

(一)  被控訴人が控訴人主張のとおり訴外佐久間鋳工所から賃金の支払を受けた事実は認める。

(二)  民法第五三六条第二項但書にいう償還すべき利益は相当因果関係の範囲に限られ、右利益とは一般的には債務の提供にあたつて当然必要な負担を免れること、すなわち消極的利得をさし、債務を免れたことにより他でこれを使用して得た利益のような積極的利得は含まれないと解するのが正当である。というのは、積極的利得は債務者の自由な意思によるものであつて、債務を免れたことと相当因果関係にあるとはいえないからである。労働者が労務の提供を免れた場合に、当然に他で働いて賃金を得るであろうという関係が一般的に予定されたわけではなく、労働者が他で働くことは各労働者の自由な意思による。そうしてみれば、他で働いて得た賃金は民法第五三六条第二項但書の「利益」に当らない。

また積極的利益も相当因果関係にあるものとして償還しなければならないとしても、労働契約上の債務は継続的でしかも契約の時間内自らの全身で履行しなければならない特殊な債務であるから、債権者の受領遅滞の場合でも債務者たる労働者は、常に履行できるように身体を用意しておかなければならないから、このような労働者が通常の定職を得ることは、殊にわが国のように労働市場が閉鎖的なところでは極めて困難であつて、当人の異常な努力かまれな偶然によるもので通常あり得べきことではない。受領遅滞にあつた労働者が他で働くことは、債務を免れたことと相当因果関係にあるとはいえない。このような場合に償還すべき利益とは出勤のための交通費等の限られたものしか考えられない。

(三)  仮りに被控訴人が控訴人に対し、他で働いて得た給与を償還しなければならないとしても、民法第五三六条第二項但書は「償還することを要す」と債務者の債務より定めているのであるから、控訴人が本来支払うべき給与から右債務を差引いて支払うことは被控訴人に対する控訴人の返還請求権を自働債権として被控訴人の給与請求権を受働債権とする相殺に他ならない。ところが労働基準法第二四条第一項は労働者の給与請求権を受働債権とする相殺を禁止しているから、右のような相殺は許されない。

(四)  仮りにそうでないとしても、労働基準法第二六条により控訴人は被控訴人に対し被控訴人が得ていた平均賃金の六割を支給する義務がある。すなわち同法第二六条と民法第五三六条第二項との関係については学説が分れているが、右基準法第二六条による休業手当の場合には休業中他で働いて得た利益を償還することを要せずして常に平均賃金の六割の支払を受けることができることについては争いがない。したがつて本件の場合も、少くとも平均賃金の六割を支払うべき義務がある。

ところで被控訴人が解雇されるまで六カ月間の平均賃金は月額金一三、七九七円である。よつて前記(一)、(二)の主張が容れられず、請求が右平均賃金以下しか認容されない場合においても、控訴人は被控訴人に対し昭和三〇年一二月一一日以降昭和三五年四月三〇日まで一ケ月金八、二七六円の割合による金員を支払う義務を負うものである。

証拠関係<省略>

理由

第一、被控訴人、控訴人間の雇傭関係の成立および控訴人から被控訴人に対する保安解雇の意思表示

この点に関する原判決事実摘示請求原因一の事実については当事者間に争いがない。

第二、控訴人より被控訴人に対する右解雇の意思表示の効力

一、右解雇の意思表示が労務基本契約附属協定第六九号に違反するものとして無効であるという被控訴人の主張については、これを排斥すべきものとする理由は原判決理由記載と同一であるからこれを引用する。

二、右解雇の意思表示が被控訴人の主張するように不当労働行為に当るものとして無効とみられるべきものであるかどうかについては、当裁判所は後記の訂正、附加をするほか原審のしたと同一の事実認定をし、右解雇の意思表示は労働組合法第七条第一号に抵触し、労使関係の公序に違反するものとして無効であるとするが、その理由は原判決に記載してあると同一であるから、右原判決の理由を引用する。

(一)  原判決理由二、(二)のうち「原告本人の尋問の結果」(記録第三四〇丁表一行目)の次に「当審における被控訴人本人尋問の結果」と挿入し、「昭和三〇年九月頃YED相模本廠において行われたストライキに際して」(記録第三四〇丁表二行目ないし三行目)とあるのを「昭和三〇年七、八、九月にかけてYED相模本廠において行われたボイラーマンの首切り反対闘争に際して」と訂正する。

(二)  同理由二、(二)のうち「前出乙第五号証」(記録第三四一丁表四行目)の次に「当裁判所が弁論の全趣旨から真正に成立したと認める乙第七号証の一ないし四」と挿入する。

(三)  当審証人滝村幸雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第一六ないし一八号証、当審証人泉実の証言中右認定(原判決理由第二の二中原審のした事実認定)と相容れない部分は原審証人今野吉五郎、同須藤順、同内田孔夫、同内藤巍の各証言、原審および当審における被控訴人本人の供述に照らし措信しない。

(四)  控訴人は被控訴人の解雇が現地部隊とは関係なく、軍の上級司令部の調査に基づき為されたと主張するところ、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる乙第一五号証の一、二によると、上級司令部は上級司令部に対し報告するのを任務とするところの上級司令部の一機関の調査による情報を受け取り、それにより調査を完了し、被控訴人が保安上危険であるという保安解雇審査委員会の意見を受け入れ、被控訴人解雇の指令を為すに至つたことが認められるけれども、上級司令部が現地部隊とは全然無関係に控訴人に対して被控訴人の保安解雇を要求することを決定したという特段の事情があつたことは同号証によつても認められず、他にこれを認めるべき証拠はなく、被控訴人の組合活動につき軍の上級司令部が全く関知しなかつたと認めるべき特別な事情の立証もないから、上級司令部は現地部隊を通じて被控訴人の組合活動を認識しているものと認めるのが相当であつて、控訴人の右主張は採用し難い。

第三、控訴人より被控訴人に対する予備的解雇について

証人滝村幸雄の証言により成立を認め得る乙第八号証及び同証言によると、被控訴人の所属していた横浜技術廠相模本廠のインベントリイ・ブランチ・ストレーヂディヴィジョンFU・NO3(その後インベントリイ・セクションNO2に変更)においては貯蔵部修理品部の作業減少のため人員整理の必要が生じ、相模原労務管理事務所長は昭和三三年四月二五日米軍より右セクションの荷扱夫全員六名につき同年六月二〇日限り解雇すべき旨の人員整理の要求を受けたことが認められ、被控訴人が駐留軍労務者の人員整理の実施手続を規定した日米間の基本労務契約の細目書IH節による整理該当者で先任逆順によれば第二位であることは当事者間に争いがないから、昭和三〇年一二月一〇日の被控訴人に対する本件保安解雇の意思表示が無効であつて依然控訴人に雇傭された駐留軍労務者として従前の職にあるとするならば、当然整理該当者に当るものというべきところ、昭和三三年一二月一九日付書面をもつて控訴人より被控訴人に対し、昭和三四年一月二〇日をもつて解雇するむねの予備解雇の意思表示を発し、右意思表示は即日同人に到達したことは当事者間に争いがない。

第四、被控訴人の控訴人に対する賃金請求権

(一)  前叙のとおり控訴人が被控訴人に対してした昭和三〇年一二月八日付書面による解雇の意思表示は不当労働行為に当るものとして無効であるから、被控訴人と控訴人との間には昭和三〇年一二月一〇日以降においても、依然として雇傭関係が存続していたものというべきであるが、昭和三三年一二月一九日付書面による解雇の意思表示により昭和三四年一月二〇日をもつて被控訴人は解雇され、同年同月二一日以降は雇傭関係は消滅したというべきところ、昭和三〇年一二月八日付書面による解雇の意思表示のなされる前には、被控訴人に対し控訴人から毎月一〇日に金一三、六〇〇円の賃金が支払われていたことは当事者間に争いがない。

(二)  民法第五三六条二項但書にいわゆる「債務を免れたるに因りて得たる利益」とは、単に債務を免れたために支出しないで済んだ利益に限るものと解すべきではなく、労務の給付を免れた債務者がこれに因つて得た時間を利用し他で働くことにより通常得られる程度の賃金を得た場合には、その賃金は債務を免れたことと相当因果関係にあり、したがつてこれをもつて「債務を免れたるに因りて得たる利益」と解するのが相当であるから、これを債権者たる使用者に償還すべきであり、この場合償還するというのは労働者の受くべき反対給付たる賃金額からこれを控除すべきものと解するのを相当とする。債権者の受領遅滞の場合債務者たる労働者が他で定職を得ることが相当に困難であるとしても、被控訴人主張の如く異例であるとは認められない。

(三)  労務の給付を免れた債務者が他に就職して得た収入は免れた労働時間を利用して得たものであるから、本来労務を提供して受くべきであつた賃金に対応するものであつて、労働者の財源としてはその賃金の一部と同一視すべきものであるから、これを控除することは労働者の賃金確保の必要から定められた労働基準法第二四条にはなんら抵触しないものというべきである。

(四)  前叙(一)によると、被控訴人は昭和三〇年一二月一一日以降昭和三四年一月二〇日まで一カ月金一三、六〇〇円の割合による賃金の支払を控訴人から受くべかりしものというべきところ、その合計額は金五〇七、五八六円(円以下切捨)となること計算上明かである。

然るに控訴人が保安解雇後昭和三二年九月二七日以降株式会社佐久間鋳工所に勤務し、同所から昭和三二年中に合計金四六、八〇五円、昭和三三年中に合計金二四〇、七七六円、昭和三四年中に合計金二三二、一五八円、昭和三五年中に合計金七〇、一七六円の給与を受けたことは当事者間に争いがなく、これは被控訴人の経歴等に徴すると、通常得られる程度の賃金と認められる。

控訴人は、被控訴人が本件保安解雇から昭和三四年一月二〇日の予備解雇までの間前記佐久間鋳工所より得た収入のうち少くとも、昭和三二年度および昭和三三年度分合計二八七、五八一円は、右期間に受くべかりし被控訴人の賃金より当然控除されるべきものであると主張する。しかしながら、労働基準法第二六条が休業の場合につき平均賃金の少くとも六割に相当する手当の支払を命じ、違反行為に対する罰則規定をもつてこれを強行している趣旨に徴すれば右別途収入は労務者の平均賃金の四割を超えない限度において右期間に受くべかりし被控訴人の賃金より控除しうるものと解するを相当とする。

被控訴人が解雇されるまで六カ月間の平均賃金が月額一三、七九七円であることは当事者間に争いがないから、昭和三二年九月二七日から昭和三四年一月二〇日まで右平均賃金の四割に相当する金額を計算すると金八七、〇七八円(円以下切捨)となるから、前記別途収入額のうち右金額に相当する分を前記五〇七、五八七円から控除した計金四二〇、五〇九円が被控訴人の請求し得べき総金額となる。

第五、結論

よつて被控訴人の本件請求は以上認定の限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、これと一部異る原判決を変更することとし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九二条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 関根小郷 福島逸雄 荒木秀一)

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